ムサシカップ!の巻

閉会式。

入賞者セレモニーですね。

少年部はリュウトのみでしたが、いつもは壮年部で出場するツエさんが今大会では一般部でエントリー。決勝戦で敗北しましたが準優勝。

そして壮年部には55歳のカワハラさんが出場。

50歳を超えて空手を始めた方です。もちろん、若い頃に空手の経験があったわけでもなく、純粋に壮年になってから空手を始めた道場生。

ムサシカップの壮年部は38歳以上です。

そこに55歳のカワハラさんが出場です。

出場が決まってから、もう地獄のような特錬をしてきました。

出るなら、準備して、勝とうが負けようが、悔いのない試合をしてもらいたい。ということで。

これをやっておかないと、ここで負ける。というポイントが試合にはあります。そして、それは肉体的なことであったり精神的なことであったりするわけですが、最後のものを言うのは練習です。

これだけ練習してきたんだから。という自分自身に対する納得です。

井上雄一朗が最低限これだけはやっておかなければならない、という練習をカワハラさんは、もう必死になってやってきました。

50の手習いといいますが、手習いにしては、フルコンタクト空手は、あまりにも厳しい競技であります。

今大会最高齢です。

「ひとつ勝って貰いたい・・・」あれだけの稽古をしてきたカワハラさんに対し、井上雄一朗が大会前夜に呟いた言葉です。

「勝たせてやりたいです。やるべきことはやりましたから」と。

勝負は時の運で、一番練習をしたから一番になれるわけではありません。

そういう非情さがあります。

そして、それは井上雄一朗は百も承知。

指導者なら、誰もが試合に対し思う事だと思います。

それでも、それでも、55歳にして井上雄一朗が現役当時やっていた特錬を、ラウンド数や時間は減らしているとはいえ、やってきたカワハラさん。

私も「そうだね、ひとつでいい。勝って貰いたい・・・」と。

カワハラさんは、記事で何度も書いてきた通り、いつも「梅干し」を持ってきてくれる道場生です。人生に於いて大先輩なのですが、謙虚で真面目で、そして素直で実直な方です。

あれだけ練習してきたんだ。練習量では、この中で一番してきた。スタミナは問題ない。

だから、勝って!

一回戦シードで二回戦から出場。

相手は緑帯です。

セコンドにはサカイ選手がつきます。

井上雄一朗や私が担当していたBコートでの試合だったので、井上雄一朗と私はリザーブ審判スタッフと交替です。

二人して、流れる汗を拭きもせず、試合を見ました。

カワハラさん、人生初めての試合。

緊張感はどうだ?体は動くか?

もう頭がいっぱいになるわけです。

練習した通りに体が動いています。

下突きが出ます。井上雄一朗が何度も何度も指導した、ショートの突きです。

上からの突きはですね、これ、本能で練習しなくても出せるのですが、下からの突きというのは練習しないと出ないんですよ。大振りなアッパー気味な突きも練習しないと出ません。ましてショートの突きは、気の遠くなるくらい練習して体で覚えないと出ない技のひとつです。

そして、上段突きのないフルコンタクト空手の試合では、この下突きがメインな手技の攻撃になります。

いわゆる「中段理論」ですね。

「井上!下突き出てるぞ!練習の時のように出てるぞ!」

「動けてます!いけますカワハラさん!」

試合会場にはパーテーションがあり、他の大会では試合会場を囲むように応援団がいたりするのですが、ムサシカップでは距離があります。

それでもBコートに近いパーテーションの最前列に、井上道場の少年部やら関係者の姿があり、声を出しての応援は禁止なので食い入るようにカワハラさんの試合を見つめています。

カワハラさん!あなたはひとりじゃない!

四角い試合場ではカワハラさんが、たった一人で戦っていますが、その周りでは、一緒に練習した仲間たちが、心をひとつにして応援しています。

カワハラさんが、どんな練習をしてきたか知っている仲間たちです。

試合の結果などどうでもいい、あれだけ練習してきた、その結果を見せてください。

もうそれだけです。

本戦引き分け。

「よし!」井上雄一朗が声を上げます。

最後にものを言うのはスタミナです。そして壮年部の試合は、それが顕著に表れます。

だから、井上雄一朗はカワハラさんに自分を追い込む練習をさせてきた。

「スタミナだったら負けない」

井上雄一朗の自信ある声が続きます。

勝負は何があるかわかりません。だから面白く、そして恐いのですが、その怖さと戦うのは、四角い試合場で戦う選手たち本人。そして、その戦いを支えるのは練習の裏付け。

心が折れたら、どんなに技術や体力があっても、練習してきても、勝てません。

心が折れない最後の砦は、これは「これだけやってきたんだ」という自分自身に対する納得しかないわけです。

井上雄一朗は、それをカワハラさんに指導してきた。

だから、

「カワハラさんの心が折れることは絶対に、ない!」

と二人して思っていました。

延長戦。

相手の動きが鈍くなってきました。スタミナ切れです。

ここからが勝負です。

「手が出てるぞ、井上!」

「スタミナなら負けません!」

試合終了を告げる笛が鳴り、判定です。

「よっしゃー」という井上雄一朗の声でカワハラさんの勝利を知りました。

暑い。

蝉の音、それも蝉しぐれが何故か耳に入りました。

夏なんだよな、という感覚と静寂感が一瞬身を包み、歓喜するセコンドのサカイ選手の姿、パーテーションの奥で手を叩いてよろこぶ少年部や道場関係の姿が、スローモーションのように目に入ります。

暑い。

夏なんだよな。

暑いのに鳥肌が立ち、カワハラさんに駆け寄る井上雄一朗の姿を見つつ、人類が初めて月に到着した時のことを思っていました。

アポロ11号。

1969年7月16日。ニール・アームストロング船長率いるアポロ11号は、人類初の月面着陸に成功。

人類が初めて月に降り立った瞬間です。

それも夏の日でした。

アームストロング船長の有名な言葉がありますね。

That’s one small step for [a] man, one giant leap for mankind.
(これは一人の人間には小さな一歩だが、人類にとって大きな飛躍だ)

カワハラさんの、この一勝は小さいな小さな一勝かも知れません。しかし、井上道場としては、大きな一勝であるわけで、努力した人間が報われる瞬間というのは、感動せざる得ないわけです。

戦いを終えたカワハラさんに井上雄一朗が「次がありますから、次も頑張りましょう」と声をかけたら、カワハラさんこう答えたそうです。

「わたし、勝ったんですか?」と。

人が一生懸命になるということは、そうたびたびあることではなく、まして他人の真に一生懸命な姿を見る機会というのは少ない。

その少ない機会を目の当たりにした瞬間でもあるわけで、自分が勝利したことすらも記憶にないカワハラさんに対して思うことは、やはり「この一勝は重い」ということです。

特錬時のカワハラさん1 特錬時のカワハラさん2

50を過ぎて空手を始め、55歳にして38歳以上のカテゴリーの試合に出たカワハラさん。

私や井上雄一朗が55歳になった時、このカワハラさんのモチベーションを持ち得るか?

答えは55歳にならないとわからないのですが、少なくとも、そうありたいと思う次第であります。

閑話休題。
閉会式の話でした。

そんなカワハラさんをパチリ。

閉会式 閉会式でのカワハラさん

カワハラさん、くびにタオル巻いています。

井上雄一朗らに「カワハラさん、あれなんだろうねぇ、無意識なんだと思うんだけど、タオルをくびに巻いたまま。首からかけているんじゃなくて巻いてるのよ」と話し爆笑。

ちなみに、表彰式の途中で気が付いてタオルを取ったのですが、その際にメダルを落としていました(笑)

ちなみにちなみに入賞者記念撮影があり、少年部で入賞したリュウトが何処にいるかわからなかったので、大声で「リュウト!賞状を高く上げろ!」と言ったら、賞状を掲げる子がいて、「あ、リュウト」と。

リュウト賞状を掲げる。でも3位

閉会式も終わり、入賞者と最後まで残ってくれた道場生で記念撮影。

センターはカワハラさん。

みんなの笑顔がすべて!

チーム井上道場

大会も終わり、さて帰宅だね、と帰路につきます。

夏の日差しと木漏れ日と心地よい風と蝉しぐれ。

夏ですね。

車の中で反省会ともネタ探しともいえる会話をする井上雄一朗と私であります。

■動画:ムサシカップを終えて

サ、日常が始まります。

勝った人も負けた人も、頑張っていきましょう!

最後に、ムサシカップに出場した全選手、大会運営スタッフ、各道場の先生及び関係者の皆様、お疲れ様でした。

<オマケ>
恒例の誠武館岩永館長コーナー(笑)

ムサシカップ関連画像の最初が岩永館長で、最後も岩永館長だったので記念に貼り付けです。
お疲れ様でした。

大会前にパチリ 大会後もパチリ


ムサシカップ!の巻” へのコメントが 5 点あります

  1. 押忍! 昨日は大変お疲れ様でした。帰りに井上先生にはご挨拶できたのですがバタバタとしておりましてご挨拶もせず申し訳ありませんでした。
    家内が地区の集まり(祭りの実行委員長?ぎゃははは)だった為に皆様よりも先に帰路につかせてもらいました。

    しかし、あの扇風機はサイコーでしたね。道場でも工場で使っているような大きなやつを使っていると言うのにあの体育館で家庭用のものを・・・でもあの扇風機にすがっていた人もいらっしゃったんですね(笑)言っていただければ下に向けたのに。
    さて、結構お二人で私のことネタにしてますね、ありがとうございます。
    今後ともよろしくお願い致します。 

  2. 押忍。池田先生、昨日はお疲れ様でした。

    こちらこそ、大会終了後はバタバタとしてご挨拶できず申し訳ありませんでした。

    そして、池田先生のコメントを読んでいると、いつも「きっと一杯やって絶好調に違いない・・・」と思う自分がいます(笑)

    夏の大会で暑かったのですが、あの扇風機に着目していた方が自分以外にもいて、それが池田先生だったということに爆笑しました。

    会場は暑かったですが試合も熱かったですね。

    そしてそして、記事最後に貼り付けた動画の中から、池田先生や近先生について話しているのを聞き逃さない、その繊細さに脱帽です。

    池田先生や近先生や他の先生方については、余話として別記事でも書こうかなと思っていたところでした。

    是が非でも記事にしないと(笑)

    こちらこそ、今後もよろしくお願いします。

    千春選手によろしくお伝え下さい。

    押忍。

  3. 皆さん昨日はお疲れ様でした。入賞された
    カワハラさん、ツエさん、リュウト、おめでとうございます。努力は実をむすぶ・・・・
    まさに、弛まぬ努力を真面目に続けてきたからこその入賞ですね。試合を見ていて涙がでそうになりました。
    ユウスケがカワハラさんとツエさん、かっこいいーと尊敬していました。彼は一般部の練習でお二方と一緒に汗を流しているので余計に何か感じるものがあったようです。
    きっと、ご家族には改めて、カッコイイ、尊敬できるお父さんになったんでしょうね。
    しかし、声を出して応援できないことがあんなにストレスになるとは思いもしませんでした。
    代継のヒカリは「アー、イライラするー。なんで応援できんとー」とツエさんの1回戦では私の横で半狂乱になってました。
    でも・・・
    まさにその通りだなぁと私も同意見でした。
    でもヒカリはその後、セコンドにはいって充分にしっかりとアドバイスしていました。
    井上師範、今回はユウスケに貴重な経験をさせていただきましてありがとうございます。
    夏休みに入りました。また、空手漬けの日々が始まります。どうぞ よろしくお願いします。

  4. カワハラさん!おめでとうございます!
    出場された選手の皆さんもお疲れ様でした↑↑
    『小さな一勝、されど井上道場にとっては大きな一勝』すばらしいです!!
    いくつになろうが『挑戦!』なんですね。

    井上道場バンザーイ!!!!

    少年部の皆さんは夏休みですね。。。
    外では帽子をかぶりましょう☆

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